こんにちは。ライターかおるです。
突然ですが、装蹄師(そうていし)という職業をご存知でしょうか?私は友人がこの職業に就くまで、全く知りませんでした。
馬好きの方ならご存知かもしれませんが、装蹄師とは馬のひづめに蹄鉄(ていてつ)を打つ技術者のことです。人を乗せたり荷物を運ぶ家畜の馬は、野生の馬よりもひづめが痛みやすくなるそうです。それを防ぐために考案されたのが、装蹄の技術なんですね。歴史ある職業です。
さらに全国に約1300名しかいない珍しい職業。そんなレアな仕事をしている人が、たまたま友人にいたので、どんな価値観をもって、どんな人生を歩んできたのか?ゆるーく聞いてみました!
もくじ

最近、何やってるの?

装蹄の仕事はもちろんだけど、サーモグラフィーを使った研究なんかもやってるよ。これがかなり専門的で難しいのよ…。先輩にも相談しながら資料読んだりして、最近やっとわかるようになってきた。

なんだか難しそう…。仕事は楽しい?

仕事は楽しいよ〜。自分では、いい生き方していると思っている。だって嫌だもん。興味のないことは、やりたくないもん(笑)ただ好きなことをやっていたら、今に辿り着いた感覚かな。

それはいいね!ある意味オタク気質ってことなのかな?

それもあるかもね。シンプルに考えたら、自分の好きなことに仕事でも関われる方が、楽しそうじゃない?
懸念があるとすると、俺は競馬がすごく好きだから、それを仕事にして趣味でなくなった時に、嫌いになったらどうしようという不安はあった。けど、それが大丈夫だったら、めちゃめちゃ楽しいよね。その辺は表裏一体だと思う。

その辺は覚悟して競馬の世界に飛び込んだの?

いや、何も考えてなかった(笑)ただやりたいと思って、行動に移しただけだよ。

おお、かっこいい!

俺は競馬が好きというより、馬が好きの方が上回っているんだよね。だから、馬に直接触りたかった。
大学生のときに、競馬関連の会社の就職説明会に参加したことがあるんだけど、総合職の説明だったのよね。聞いたら、総合職だと、馬に直接触れる機会がないことがわかった。管理がメインなんだよね。それは自分がやりたいことではないと、はっきり気づいた。

いつから馬を好きになったの?

小5くらいかな。当時は兵庫に住んでいて、サッカーを習っていたのね。そのクラブチームの練習場が競馬場だったのよ。競馬場って、実はいろいろ遊び場があって、コースの真ん中に子供が遊べるところがある。子供をそこで遊ばせといて、親は馬券を買うみたいな(笑)

うまく考えられているね(笑)親御さんも競馬好きだったの?

いや、全然。当時、競馬場で友達と遊んでいる最中に、周りで馬が走っているわけよ。そこで、うわー!かっけー!ってなって、馬を好きになったんだよね。その後、東京に来てフジテレビの競馬中継を見て感激した。

え、小学生で競馬中継見てたの??

見てた見てた。中学生になってからは、親に頼んでネットの馬券を買ってもらっていたよ。新聞も買ってきてもらって、自分で馬券を選んでいた。

当たってた?

うん、トータルで換算するとプラスじゃないかな?

すごい!計算しながら買ってたの?

1度だけ、数十万円と当てたことがあって。1着、2着、3着をドンピシャで当てるタイプだったかな。1着を2頭選んで、2着を2頭選んで、3着を7頭選んで、2000円くらいで買った馬券が、数十万円になった。

それはすごい!ぜんぶお小遣いになったの?

いや、ならなかった(笑)しっかり回収されたよ(笑)あ、家族で焼肉に行ったかな。

競馬の魅力って、馬がかっこいいとか、賭け事が楽しいとか、いろいろあると思うんだけど、どこに一番魅了されているの?

テレビで見る馬と実際現地に行って見る馬では全然違うと思わない?あの躍動感や生命力が、何とも言えないくらいいいよね。言葉にするのは難しいけど、肌で感じる魅力かな。

お金というより、馬が生み出すエネルギーに魅了されているんだね。だから、甲斐甲斐しくという言い方が正しいかわからないけど、馬の世話をすることができるの?

うーん、そうね。馬にもいろいろ性格があってさ。おとなしい馬もいれば、凶暴な馬もいるのよ。あれだけ走ってたのに、戻ってきたらこんなにおとなしいのねっていうギャップも可愛い。

動物が好きなんだね。競馬業界で働いているけど、ギャンブル好きの思考とは全く違うね。どちらかというと、馬愛が強い。

それはそうだよ。もともと、確率や数字を使って考えることが好きなのよね。麻雀は好きだけど、将棋やチェスは苦手。戦略を頭で組み立てて考えるのは無理。目の前の数字を見て、確率や期待値の計算をするのが好き。

理系っぽいね。心理戦というより、統計や分析をもとに考えるのが好きなんだね。

もとは理系だからな。

え、同じ文系だと思ってた…。

そういえば、大学を中退したのはいつだっけ?

大学3年生の時かな。就活をしてみて、俺がやりたいことは普通に就職してできることではないことに気づいた。馬を世話する厩務員(きゅうむいん)という職業の人がいるんだけど、それを目指そうと思ったのよね。ちなみに厩務員を統括しているのが調教師。

それで北海道の牧場に行ったの?

そう。当時は、厩務員になる試験を受けるための条件があったのよ。例えば、受検資格は28歳までとか、競走馬を飼育している牧場での勤務経験が1年以上、馬に乗る技術を会得してる、などかな。

北海道の大自然に囲まれて、心穏やかに仕事できそうと思ったんだけど、実際どうだった?

そんなものは皆無だね。しかも俺、北海道で1回手術したんだよ。股下に血栓みたいなものができる体質らしく、乗馬の反動で影響が出たみたいだった。それから乗馬禁止というドクターストップがかかってしまって、厩務員になる夢が閉ざされたんだよね。

それは辛い…。そこからどうやって装蹄師の道へ繋がったの?

前置きが長くなるんだけど、実は北海道に行った当初、トップの人にいびられたんだよね。ある時、臨界点をこえて、絶対見返してやる!って決めた。
そこから仕事を超頑張ったよ。その時は、若くて血の気が多かったのかもしれないけど。

ハングリー!

北海道の牧場では、具体的にどんな風に頑張ったの?

何を頑張ったんだろ…技術的なところかな?
関わる部門の一番偉い人と仲良くなって、いろいろ教えてもらったかな。その人は、いびるトップに気に入られていたから、技術的なところはもちろんだけど、コミュニケーション的なところも学ばせてもらった。それを愚直に実行していたら、1年後には、ばんと給料をあげてもらえたよ。

努力の賜物だね!

いやぁ、そのときは本当にすごく腹立ったんだよね。理不尽なことばっかり言われるんだよ。だから、がむしゃらに頑張ったかな。
トップに認められてからは、2厩舎(きゅうしゃ)分の厩舎長を任せてもらうことにもなった。午前中は朝6時から仕事をして、12時頃終わって、少し昼寝して、14:30からまた出勤することの繰り返し。24頭の馬の足に異常がないかをチェックして、牧場長に報告するまでを全部1人でやってた。23歳くらいのときかな。
その中で、仲良くなった装蹄師の人がいるんだよね。その人に、厩務員への夢が閉ざされて、このまま牧場で働き続けることに悩んでいることを相談をした。そしたら、装蹄師の専門学校を受けることを勧めてもらったんだよね。それで、興味をもって専門学校に入ったのよ。

なるほど。牧場で出会った装蹄師さんがきっかけだったんだね。しかも今、好きなことを仕事にできているのは、牧場でのハングリーな経験があってこそなんだろうね。

そうだね。それは本当に経験してよかったと思ってる。

一般の会社でいう若手の下積み経験に近いと思うんだよね。そこを乗り切れないでスキルが身につく前に早期離職するケースもあるからさ。そういう踏ん張りどころで踏ん張れるかっていうのはかなり重要だし、今に繋がっていそう。

そうね。一般的に会社には、上司からパワハラやセクハラを受けて内部申告する部署があるじゃん?でも、牧場にはそんな部署なんてないからさ。
嫌なら辞めれば?というのが、当たり前の世界だった。だから、相手に認めさせるしかなかったんだよね。こういうのって、普通に大学出て、就職していたら味わえない世界だったかもしれない。

ところで、装蹄師の専門学校は入学の条件とかあるの?

ないよ。装蹄師って、めちゃくちゃしんどい職種だと言われていて、足りないくらいなんだよね。だから学校を受ける人も少ないんだよね。

そうなんだ。どの辺が大変なの?

まず、中腰で仕事するのが大変。さらに弟子としての働き方がスタンダードだから、そこに馴染むのが大変。弟子のうちに辞める人がかなり多いんだよね。
しかも競馬業界って、かなり特殊なんだよね。いろいろな組織が専門性のある管轄をもっているから、折り合いをつけないと最悪、競馬を開催することができない。しかるべき組織や人へのホウレンソウがもれると、かなり大きなクレームに繋がるから、人と人とのやりとりは特に厳しいと思うね。

へえ!それは知らなかった。ちなみに、専門学校に入って大変だったことはある?

牧場での経験があった上で入学したから、特に大変に感じたことはないかな。

それにしても馬に一途だよね。

そうね。大変でも頑張れるよね。だって面白いんだよ!
やっぱさ、人間もそうだけど、みんな違ってみんないいってあるじゃん?顔も違えば、性格も違う。それは馬も同じで、俺らが普段見ているのは爪だけど、それぞれ個体差があるじゃない?爪が丈夫な馬もいれば、もろい馬もいるんだよね。
なんかね、みんな違ってみんないい。

愛が伝わってくる!

あのね、爪が薄くてボロボロになった馬を、自分が処置を考えて治せたときに達成感があるんだよね。
爪って、未知な部分が獣医的にも装蹄師的にも多いのよ。だから、試行錯誤しながら治療をして、状態を観察しながら適宜やり方を変えるんだよね。それがハマった時に達成感がある。

こういうのもあれだけど、実験みたいだね。

そうだね。実験馬もいるしね。

人間の医学もそうやって発達してるもんね。いやー、奥が深いね。

そうなんだよ。わからないことだらけだよ。

装蹄師という仕事は、靴を直してくれる職人さんみたいなイメージだったけど、全然違った。

まあ、イメージは近いけど、対象が生き物だからね。

20年くらい経ったら、馬の爪のことは何でもわかっていると言えるようなプロになっているのかな?

いや、ずっと探究の継続だと思うよ。なんでこうなった?っていうことばかりだもん。食べ物でも左右されるし、ストレスの影響も受けるからね。馬も風邪ひくし。

へー!そうなんだ!

馬って四つ足だから、だるくなると動かなくなるんだよね。人間は横になったりするけど。そうすると、足がむくんじゃうんだよね。(その理由の細かい専門的な説明が続く)

奥が深い!昔と比べて、自分の中で変わったと思う価値観はある?

馬に対する価値観くらいかな?あと、昔に比べるとがつがつさはなくなったかも。

たしかに、マイルドになった気がする。これからの人生において優先順位が高いことは何?

楽することかな(笑)仕事はやる時はやるけどね。牧場時代がきつすぎたから、その反動もあるのかもしれない。自分のやれることをしっかりやって、頑張ればいいんじゃないかな?

今がハッピーなのは大事だよね。将来の野望とかあるの?

全くもってない(笑)犬を飼いたいくらいかな〜。
まず、大学を中退して北海道の牧場に行くのって、勇気のいる決断だと思います。しかも周りは就職活動中です。その中で、自分の直感に従って、新しい環境に飛び込む。その行動力に感服です。
しかも、紆余曲折しながらも、当初の目標とは違う形で夢を叶えています。人生、行動したもの勝ちなんだな、と思いました。
好きなことにまっすぐで、ブレない軸が、今の友人をつくっているように感じます。好きを仕事にするためには、どこかでスキルを磨く経験が必要なのかもしれません。ですが、軸があることで、きつい修行も乗り越えることができるのかもしれないですね。

友人の生き方は職人の道ですが、どんな仕事でも、一定の職人気質は必要だと思っています。友人の仕事への向き合い方や考え方は、どんなビジネスマンにも通じるところがあると思います。
彼にとっての馬、目の前の関わるべき対象にしっかりと向き合えているか?そんなことを考える時間となりました。
こうやって10年来の友人のエピソードを聞くのは、過去を知っているからこそ楽しいですね。この場を借りて、お礼を伝えたいと思います。ありがとう!引き続き活躍を陰ながら応援しています!